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連載

現代史の言霊 第11話

三月の彗星  1994年(ベルルスコーニ)
伊熊 幹雄

2019年3月号

一九九四年
《今こそイタリアの良心を総結集する時だ》

ベルルスコーニ(元イタリア首相)

 女好きで放埓、カネに汚く、暴言を繰り返す。こんな人物が米国大統領を二年もやっているので、世界は多少のことでは驚かない。
 だが、二十五年前の一九九四年三月、その原型のような人物がイタリア政界に現れてから、二〇一一年に退陣するまでの十七年以上、世界は彼から目が離せなくなった。シルヴィオ・ベルルスコーニの登場である。
「マフィアの資金洗浄で財をなす」
 一九三六年にミラノで生まれたシルヴィオは、五〇年代のイタリア映画が描くような貧困の中で育ち、なんとかミラノ大学法学部まで進学した。大学卒業者が二%に満たないころだ。
 小柄ながら甘いマスクのハンサムで、渋い低音を武器に、仲間とバンドを組んでナイトクラブで歌って学費と生活費を稼いだ。
 卒業後は不動産、建設業界にいきなり飛び込んだ。二十代半ばでミラノの新興住宅地にアパートを築いて売りさばき、これを元手に事業を拡大した。
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