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連載

本に遇う 第232話

オカラはカスにあらず
河谷 史夫

2019年4月号

 この本を毎日新聞書評欄で知った。「著者は一般には評価の低かった『風の中の牝雞』を高く評価する」とある。これは読まねばならぬと思った。だが著者の名前にも版元の屋号にも馴染みがない。駅前の書店に探す本があった例がない。アマゾンを検索した。ない。
「龜鳴屋」というのをネットで探した。金沢にあった。「かめなくや」と読むらしい。「二十世紀が終わる年、人生、にっちもさっちも行かなくなって、すがるように、一人こそこそ本づくりをはじめた零細自営の版元、かめなくやです」と、店主の挨拶が載っている。
「時流におきやられ、世間から忘れられた作家でも、掬すべき作ありと思えば一冊の本に仕立て、この世にその痕跡をとどめるのが、零細版元の本領。/無名、世評、関係なし。野垂れ死にあり、消息不明あり、ただただわが趣味嗜好のフルイにのこった作家、作品を並び立てたのが龜鳴屋本。/わが趣味嗜好を越えて、他所では出しそうにないけれど、これは本にする値があると踏んだラインナップが龜鳴屋一般本」
 この言やよし。「書店では取り扱っていない」というから、ネットで注文した。クレジット決済でないと発送は代・・・