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連載

をんな千一夜 第26話

没落皇族妃の深い嘆き
石井 妙子

2019年5月号

<梨本伊都子>

昭和三十三年十一月、皇太子妃に正田美智子さんが内定と発表されると日本中が歓喜に沸き、お祭り騒ぎとなった。そんな世間を目の当たりにして、その老女は気持ちが収まらなかったのだろう。日記に思いを綴り、また、数首の和歌を書き残した。
「午前十時半、皇太子殿下の妃となる正田美智子の発表。それから一日中、大さわぎ(中略)もうもう朝からご婚約発表でうめつくし、憤慨したり、なさけなく思ったり、色々。日本ももうだめだと考へた」
 あまりにも かけはなれたる はなしなり 吾日の本も 光おちけり
 つくりごと どこまでゆくか しらねども こころよからぬ 思ひなりけり
 国民が こぞりていはふ はづなるに みせものごとき さわぎ多かる
 老女の名は梨本伊都子。戦前までは梨本宮伊都子妃と呼ばれた、元皇族妃である。伊都子は昭和五十一年に九十四歳で没するまで筆を執り、約八十年間にも及ぶ膨大な量の日記を残した。皇族妃という特別な立場にいた女性の目に映った「日本の近代」が克明に記されているばかりでな・・・