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連載

本に遇う 第236話

師弟物語のあれこれ
河谷 史夫

2019年8月号


「ドクトル」と呼ぶ友人が医者の教育に関わっている。「成績はよくても何か足りないのが多い。どうすればいいのか、うまい手がない」と言うから、「韓ドラの『ホジュン』でも見せたらいい」と薦めたら、「『ホジュン』とは何だい?」と訝しがる。ドクトルは韓国ドラマなど見ないらしい。
 時は十六世紀中葉、李氏朝鮮の時代、出自のせいで非行に走ったホジュンという若者がいた。事件を起こして逃れた先で一人の村医者に出会う。師事して医術を学び、やがて都へ出て王の侍医にまで上るという韓ドラ十八番の出世譚で、テレビ東京で再放送中だが、これがまた無類の師弟物語なのだ。
 師匠は名利に惑わされず、貧富に関わらず、患者本位に徹した人物で、惜しみなくホジュンを教える。合格すれば出世の道が開ける科挙を、師匠の息子と受けに行く途中、村人に急患の診療を懇請されて、ホジュンは往診に赴く。ために試験に間に合わない。息子は患者を見捨てて試験場へ向かい、科挙に受かる。そのことを知って師匠は倅を勘当して、言い渡す。「お前は永久にホジュンに敵わないであろう」。
 不治の病に罹った師匠は、当時は禁じられ・・・