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ネスレ「水ビジネス」が世界の災厄に

「大量採水」が脅かす人命と人権

2019年11月号

 米ミシガン州フリント市と言えば、腐食した水道管から鉛が溶け出して住民への水の供給が絶たれ、オバマ大統領が二〇一六年に「非常事態宣言」を発するまでの騒ぎになったことで記憶に新しい。
 昨年四月にはようやく「水質改善完了宣言」が出されたが、住民が州を相手に起こした訴訟は現在も続いている。そして今年二月、また州を相手取っての別の裁判が始まった。環境保護団体が、ミネラルウオーター用に水源からの採水増大を許可した州の決定に異議を唱えたのだ。許可を得たのは、スイスに本社がある世界最大の食品・飲料会社で、七十以上のブランドのミネラルウオーターを販売しているネスレに他ならない。
 フリント市から北西に約百九十キロ離れたオセオラ郡に、ホワイト・パイン・スプリングスという水源がある。ここで操業していたネスレが毎分約九百六十リットルから一千五百十四リットルまで一・五倍以上も汲み上げ量の増大を申請し、州当局から許可を得たのは昨年四月のこと。その前年に地元紙が「郡内の川の水量が低下し、環境に影響が出ている」と報じたこともあり、多くの住民は決定に反発。州に八万一千八百六十二人の意見が寄せられ・・・