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連載

皇室の風 第137話

フジコ・ヘミングへのキス
岩井 克己

2020年1月号

 貧困の中、病気により聴覚の大半を失う悲運に見舞われながら音楽への執念を持ち続け、「魂のピアニスト」とも呼ばれるフジコ・ヘミング。個人的なつてで切符を回してもらったので、令和元年十一月二十一日夜、パノハ弦楽四重奏団との共演コンサートに出かけた。
 美智子上皇后への「お出まし願い」が宮内庁に出ていると小耳にはさみ、久しぶりに姿を見られるかもしれないと思った。
 関係者によると、上皇后とフジコの親交は長年にわたり、食事を共にしたこともあった。ともに八十歳代となり、互いに「これが最後の機会かもしれない」との思いもあるようだったという。
 共演したパノハ弦楽四重奏団は、チェコの代表的なカルテットのひとつで、欧州はじめ世界各地で演奏活動を展開し、日本でも平成十(一九九八)年から毎年のように草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルに招待されているという。近年、上皇夫妻は毎夏、軽井沢と草津を訪れ、上皇后は世界的演奏家とのワークショップでピアノの練習を楽しむのが恒例で、同四重奏団メンバーとも馴染みがあるはずだった。
 しかし、会場に上皇后の姿はなかった。{b・・・