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連載

大往生考 第8話

ステイホームが変えた運命
佐野 海那斗

2020年8月号

 苦しまずにぽっくりと逝きたい。多くの高齢者の願いだ。最近、期せずしてこうした最期を迎えた患者がいた。
 患者は七十代の女性だ。高血圧と高脂血症を患い、十年ほど前から私の外来に通っていた。アムロジピンとアトルバスタチンを服用し、コントロールは良好だった。
 患者の母親も高血圧と高脂血症を患っていた。六十代で脳卒中を発症し、右半身の麻痺が残った。長い闘病生活の末、十五年ほど前に亡くなった。母親の看病の経験もあり、患者は自分が脳卒中になることを恐れていた。
 脳卒中の危険因子については多くの研究が報告されている。重要なのは家族歴だ。誰もが親の遺伝的体質や生活習慣から影響を受けるからだ。年をとると親と同じ病気を発症しやすくなる。研究により異なるが、脳卒中の家族歴がある患者は、発症リスクが二~八割ほど上昇することになる。
 津金昌一郎・国立がん研究センター 社会と健康研究センター長らが提唱した脳卒中発症予測モデルによれば、この患者が今後十年間に脳卒中を発症する確率は一〇~二〇%程度ということになる。
 高血圧と高脂血症の治療の基本は食事・運動、・・・