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連載

をんな千一夜 第44話

苦海に生まれた真の詩人
石井 妙子

2020年11月号

 《石牟礼 道子》

ある夜、テレビをつけたところ、「菅政権の〝経済ブレーン〟に生直撃」の文字が目に飛び込んできた。元新聞記者が司会を務める報道番組。ゲストは竹中平蔵氏。「菅政権は携帯電話の値下げに迅速に取り組み、早めに成果を上げることが大切だ」と氏は語り、自分が総務大臣を務めた小泉政権下でのハンセン病訴訟を好例として引き合いに出した。ハンセン病患者や家族が国に賠償を求めて提訴し、熊本地裁は国の責任を認める判決を二〇〇一年五月に下した。政権発足直後の小泉総理はこれを受けて上告せず、原告に謝罪。国民に好印象を与え、政権支持率を高めた、これこそが「アーリー・スモール・サクセス」で、政権は初期に小さくても成功を収めることが肝心だ、と竹中氏。携帯電話の値引きも、ハンセン病患者の苦しみも同列にされてしまうのか。さらに言えば小泉政権はハンセン病訴訟では確かに上告しなかったものの、四月に大阪地裁が同じく国に敗訴を言い渡した水俣病関西訴訟では、すぐさま上告している。政権の支持率アップと被害者への賠償額とを天秤にかけての判断であったろう。竹中氏にとっ・・・