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連載

大往生考 第16話

コロナ禍「医師不足」の無情
佐野 海那斗

2021年4月号

 新型コロナウイルス(以下、コロナ)の流行下、大往生は難しい。最近、このことを痛感する症例を経験した。
 患者は六十歳代の女性だ。筆者が週に一回勤務している首都圏の民間病院に高血圧で通院していた。定年後の夫と二人暮らしで、子どもは独立し、都内に住んでいる。
 患者が異変に気づいたのは、昨年の十二月だ。左の乳房にしこりができて、拡大しているという。乳がんを疑う所見だ。筆者は血液検査、全身のCT検査などをオーダーした。残念なことに、CA15-3という乳がんの腫瘍マーカーは上昇し、CT検査などで肺と脊椎への転移が認められた。ステージ4の進行がんになる。
 患者は父を大腸がん、母を胃がんで亡くしており、自分ががん体質であることを気にしていた。定期的にがん検診を受けており、一年前のマンモグラフィーでは問題を指摘されていなかった。進行が速い乳がんということになる。
 転移性乳がんの標準治療は抗がん剤だ。最近は腫瘍専門医が治療することが多い。ただ、筆者の勤務する病院には腫瘍専門医はいない。そのような場合、外科医に相談することとなる。乳がんは伝統的に外科の病気と・・・

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