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連載

新大学評判記 第16話

名古屋大学 有力教授「論文不正疑惑」の衝撃

2021年4月号

 不正の存在を前に黙する人々は、不正の共犯者にほかならない―。英国の政治学者、ハロルド・J・ラスキの言葉である。
 東京の大学で有機化学の研究をする大学教員が語る。
「有機化学界隈が震撼する問題だが、今のところ様子見をしている研究者が多く、皆、口が重い」
 渦中にいるのは、名古屋大学大学院理学研究科の伊丹健一郎教授。同大トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)拠点長のほか、科学技術振興機構(JST)の重点プログラムである「伊丹分子ナノカーボンプロジェクト」の総括も務めている。
「震撼する問題」とは、伊丹教授が責任著者となった論文における不正疑惑である。STAP細胞捏造や高血圧治療薬ディオバンの臨床データ操作など、科学界の不正は後を絶たない。細かいものも無数にあるが、有機化学研究者が仰天したのは、伊丹教授が押しも押されもしない「スター研究者」だったからだ。名大という学校だからこそ、同教授が現在の地位につけたという側面がある。

ノーベル賞学者の「後継者」

 伊丹教授・・・