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連載

現代史の言霊  第43話

十一月の採択 -「ナン=ルーガー法案」可決(1991年)-
伊熊 幹雄

2021年11月号

《日独の非武装化以来、最大の軍縮のチャンスだ》
 サム・ナン(米上院議員)

 今回の話は、今年八月号本欄の直後のことである。
 一九九一年八月。ソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領は、クーデターの危機を乗り切り、モスクワに戻った。陰謀の後始末、威信の立て直しが急務だった。
 折しも米議会の大物、サム・ナン上院軍事委員長が東欧を訪問していた。ソ連側が声をかけると、委員長は「喜んで」と、モスクワに駆け付けた。ゴルバチョフにとって、「自分は健在である」というメッセージを、ジョージ・ブッシュ(父)大統領らに伝えるには、ナンは最適の人物であった。
 だが、会談は思いがけない方向に進んだ。ナンは、「あなたが軟禁下に置かれていた時、ソ連の核兵器の指揮権は、どうなっていたのですか」と突っ込んできた。

「核兵器は誰が握っていたのか」

 ナンは、「米国には『核のブリーフケース』というものがあります。最高権力者である大統領のみが・・・