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連載

本に遇う 第264話

捨てるか捨てないか
河谷 史夫

2021年12月号

「終活」が盛んらしい。就活が就職のための活動で、そんなら終活は人生を終えるための活動だろう。年寄りどもよ、死に備えてケリをつけておけということか。  
 志ん生の孫娘の池波志乃と中尾彬の夫婦が、自分たちの終活をやたら喧伝していた。家を処分し、本を処分し、衣服を処分し、遺言書を書き、墓を建てたとある。万端整えて、あと残っているのは我が身の処分ひとつである。  
 余談だが、この二人の結婚を、志乃の叔父の志ん朝が噺の枕にしていたのを思い出した。中尾は前妻と別れてのことで、いろいろあったとは役者なら珍しくない。弟子たちの間で密かに「この結婚はいつまで持つか」と賭け事になっていたというのである。年単位、月単位、週単位、いや即離婚との見立てもあった。それが何と長く続いて、ご両人終活とはめでたし、めでたしではないか。  
 週刊誌やテレビで何かと終活を特集している。六十五歳以上が三千六百万人もいて、年金や国民保険やその他もろもろの政策上、爺さん婆さんは邪魔に違いない。早くあの世へ行ってくれとの政府の本音に呼応するように、遺言の書き方から乏しい貯金の整理の仕方まで、手取・・・