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経済

東京電力「11年目」の能天気

福島復興は「忘却」の彼方へ

2022年3月号

 福島県の人々が故郷を奪われてから、十一年の歳月が流れようとしている。この期間、郷里の復興は見かけ上だけとはいえ進み、絶望と瓦礫で埋もれていた浜通りの町並みはいつしか向日的な活力を取り戻した。被災地が陵谷遷貿の観を呈す中、「事故の当事者」を自認する彼らはどうなのか。世界最悪の原子力災害を起こした福島第一原子力発電所の廃炉作業は蝸牛の歩みそのものであり、再稼働を目指す柏崎刈羽原子力発電所では雨後の筍のように不祥事を生み出している。東京電力ホールディングスの公的管理は今も続く。経営再建は道半ばなのだ。しかし、彼らはいつぞや改革の志を失い、事故の反省を忘却の淵底に捨て去ろうとしている。
「このままいつまでも福島一辺倒というわけにはいかないだろう」。東電のある古参幹部の弁である。「東電は福島のために存続を許された」とは小早川智明社長の口癖だが、それも寒々しく感じるほど、東電社員の多くに福島復興への気節は感じられない。
 原発事故の後、同社には新入社員が陸続と入った。事故直後の社員は既に十年選手だ。まさに、十年一昔。原発事故は銅に緑青が吹くかの如く古めかしいものに堕してしまっ・・・