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連載

本に遇う 第276話

無条件降伏した国で
河谷 史夫

2022年12月号

 呑みに行くとか、桜を見るためというのならともかく、ただ歩くために歩くのは御免だ。そう言っていたくせに、コロナ禍になって今は歩くために歩いている。
 ガラケイに切りのいい歩数が出ると「ラッキー」と示され、「7777」には「幸運の予感」と出る。それを見るために歩くと言ったら、「人の行動には必ず目的がある。そんなことはアドラーという心理学者が、つとに唱えている」と教えてくれた人があった。
 ウクライナ戦争が終わりそうにない。プーチンは何を目的に始めたのだろう。領土拡大か、ゼレンスキー政権転覆か、ソ連帝国復活か。アドラーなら精神分析を施すかも知れないが、「皇帝」の本心が判然とせぬまま、ロシア軍の士気の低下や予備役一個大隊の全滅、さらに占領地からの撤退などの戦況が伝えられる。止めるに止められないのであろうか。
 一発の銃声から第一次世界大戦が始まったように、簡単に始めても戦争を終わらせるのは大変だ。一九四一年から四五年の日米戦争を思えば想像がつく。半藤一利の『日本のいちばん長い日』には、目的を失った国がいかに七転八倒したかが描かれている。
 八十一年前の・・・

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