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連載

現代史の言霊  第62話

米機密文書漏洩事件 (二〇一三年)
伊熊 幹雄

2023年6月号

正しいことには、法を破らなければならない時もある

エドワード・スノーデン(米NSA元局員)

 米政府のスパイ活動には、永久に消えない汚点がある。二〇〇一年九月十一日の米同時多発テロ事件だ。当時のジョージ・ブッシュ大統領、ディック・チェイニー副大統領は「再発防止のために何でもやる」と誓った。その一つが、三億人に迫っていた米国の全住民を対象にした、通信傍受だった。
 三億人の盗聴、電子メールチェックは元来、違法である。だが技術的には、もはやそれが可能だった。ブッシュ政権は同時多発テロ後に、全国民監視に着手し、それが違法にならないよう、数年がかりで法整備をした。ブッシュ大統領が後任のバラク・オバマ新大統領に業務を引き継ぐ頃には、全国民監視体制が出来上がっていた。
 人権擁護に熱心な弁護士だったオバマには、これがいかに個人の自由を侵害しているか分かっていたはずだ。だが、オバマは公の場では、ほとんど新制度を批判することはなかった。
 ブッシュの後任として〇・・・

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