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連載

日本の科学アラカルト 154

「肥料」の原料やエネルギー源に 新たなアンモニア合成法の模索

2023年6月号

 ロシアによるウクライナ侵攻で、さまざまなものが値上がりした。天然ガスが高騰した結果、世界的に電気料金が値上がりしているが、天然ガスはエネルギー源だけでなく、「水素源」としても重要だ。天然ガスに含まれるメタンから作られた水素ガス(H2)が、金属処理や石油化学の現場で使われる。また、燃料電池車向けの燃料としても使われており、昨年以降、値上がりが続いている。
 見逃せないのは「アンモニア」への影響だ。窒素は、植物の成長に欠かせない三要素のひとつ(残りはリンとカリウム)。地球の大気中の約八割は窒素ガス(N2)だが、この物質は極めて安定的なので、そのまま植物が吸収するのは難しい。そのため窒素肥料の原料には、反応性に富むアンモニア(NH3)が使われる。
 アンモニアは世界中で年間二億トンを超える量が生産されている。その製造方法は、一九〇六年にドイツの化学者、ハーバーとボッシュが発明した。一世紀以上が経過しても「ハーバー・ボッシュ法」に代わる工業的な生産法は出てきていない。
 この合成法は水素ガスと窒素ガスを高温高圧下で触媒を用いて反応させる。この水素が前述した通り天・・・