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連載

皇室の風 第177話

底つ磐根
岩井 克己

2023年6月号

泉涌寺という存在に関心が強まり始めたのは、祭祀や宗教、伝統文化など精神性と深くかかわり続け継承せねばならないという皇室の姿勢が見えにくくなり、伝統的存在として「漂流」し始めはしないかとの懸念が兆しているからかもしれない。
 平成の代始めから間もなく訪れた頃には、泉涌寺は、明治維新の「廃仏」と敗戦後の新憲法の政教分離とによって隔離された一宗教法人であり、ひっそりと息づく「過去の遺物」といった風情だった。今や余りに遠くなった世界のような感覚である。日々新たに活発化する平成の皇室の“世俗的”活動を追うことに忙殺され、中世・近世の天皇のありようにまで思いを致す問題意識も余裕もなかった。
 しかし近年、泉涌寺と近世皇室、そして明治以降の近代皇室の儀礼体系をめぐって改めて研究者らの関心が高まり、同寺など関係機関も史料公開に応じるようになって、歴史の見直しが活性化してきた感がある。
 たとえば、伊勢神宮に神職として奉職したあと泉涌寺の史料研究なども重ねてきた元泉涌寺心照殿研究員石野浩司は、月輪陵墓地に密集する近世陵墓の配置・格付け、葬送儀礼次第・・・

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