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経済

三井住友銀で続く「反社関連」融資

暴力団問題「三栄建築」との腐れ縁

2023年9月号公開

「グループ一丸となって、反社会的勢力との関係を遮断する体制を整備しています」
 三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は公式サイトでこう謳う。しかしグループ内の三井住友銀行(SMBC)の融資姿勢に重大な疑念が生じている。

「悪質性が際立つ」

 八月十六日、不動産・住宅販売のオープンハウスが、同業の三栄建築設計に対して株式公開買付(TOB)などを通じて、完全子会社化する方針を発表した。東証プライム上場の三栄建築は今年六月、東京都公安委員会から都暴力団排除条例に基づく勧告を受けており、業績先行きが不透明化し上場維持に黄信号が灯っていた。三栄建築側もオープンハウスによるTOBに賛成の意思表示をしており、今後は手続きが進む。しかしこの経緯について、某メガバンク関係者は次のように批判する。
「SMBCが火消しに走った結果だ。自分たちの責任が問われないように、三栄側の意向も無視してオープンハウスに押しつけた」
 最大の問題は、三栄建築の暴力団との密接交流についてSMBCがほっかむりしている点だ。このメガバンク関係者は「SMBCとしては知らぬ存ぜぬを貫くしかない」と指摘する。
「反社会的勢力に関するデータベースが脆弱な地方銀行ならいざ知らず、SMBCが知らなかったというのは余りに不自然。万が一、本当に知らなかったとすれば、そもそもメガバンクの資格がない」
 検証するために、時計の針を十年ほど前に戻す。二〇一三年五月、証券取引等監視委員会(SESC)が、三栄建築の本社や創業社長である小池信三の自宅などに強制調査に入った。直接の容疑は、株価操縦。当時を知る証券会社関係者が証言する。
「小池社長は知人と共謀して、午後三時にかけて売買を繰り返して終値を吊り上げていた疑いが持たれていた」
 オーナー経営者などが株式を市場外で売る立会外分売は、前日の終値を基準に取引が行われる。小池は終値を吊り上げることで不当に利益を得ていた疑いが持たれていたという。
 三栄建築の株価が不自然な値動きをしていることがSESCの監視網にかかり、「共謀していた知人も特定済みと言われていた」(前出証券会社関係者)。
 ただ、SESCは最終的に東京地検への告発を行わなかった。翌一四年に金融庁は有価証券報告書に虚偽記載をしていたという理由で、三栄建築の小池に対して七千八百万円の課徴金納付命令を出して幕引きしている。
 しかしこの時点で、金融業界では三栄建築の創業社長が怪しい人脈と連なっているとの懸念が浮上した。そして現にSESCによる調査が入った一三年に、ある銀行が小池のバックグラウンドについて調査を行い次のような結論を導き出していた。
「小池は指定暴力団の住吉会と近い関係にある。強制調査の直後にも対応について組関係者と相談していた」
 この銀行はすぐに三栄建築と距離をとり始め、現時点では完全に融資を引き揚げている。
 三栄建築の第三者委員会による今年八月十五日の報告書によれば、小池と暴力団員のつき合いは遅くとも二〇〇〇年から続いていた。
 三菱UFJ銀行も前出の某銀行と同様の対応に出ている。同行(当時は三菱東京UFJ銀行)は一三年時点では融資額トップ(約二十一億円)で事実上のメインバンクだった。しかし翌年には半分以下に融資を減らし、現在は上位層にも出てこない。前出某メガバンク関係者は「三菱UFJも三栄建築の反社リスクを察知したのだろう」と語る。
 SMBCが三栄建築の取引行として存在感を増すのは一六年以降。一七年にはトップになり、以後は一貫してメインバンクの役割を担ってきた。三栄建築の二二年八月時点の借り入れ残高は約五百五十三億円で、SMBCが百十八億円を占めている。今年五月時点では借り入れ残高が百十億円程度増加しているが、「このうち四割をSMBCが貸した」(金融業界関係者)という。みずほ銀行も融資残高約四十億円(昨年八月時点)で二位に登場するが、同行の反社チェックは過去のケースをみてもわかる通り、お粗末だ。一三年以前から取引をずるずる続けてきたみずほ銀よりも、反社リスクを無視して取引を拡大させてきた「SMBCの悪質性が際立つ」(前出金融業界関係者)。

「利益相反疑惑」も浮上

 今回、三栄建築が公安委の勧告を受けた直接の原因は二〇年のアパート解体工事を巡って住吉会系暴力団組長に百八十九万円の小切手を渡していたことだ。昨年、警視庁がこの事実を掴んで小池の自宅などを家宅捜索したため、同年十一月に小池は退任に追い込まれた。今年五月にはその組長も逮捕され公安委の勧告に繋がったのだ。
 銀行団の中でも地銀の動揺は大きかった。「早くも六月中には群馬銀行が繰り上げ返済を求めた」(金融業界紙記者)という。七月に入って行われたバンクミーティングも紛糾したというが、SMBCが他行を抑えにかかった。
「SMBCは、小池が保有している四九%の株の譲渡先を三栄建築の決算期末である八月末までに決めると提示して、他行を説得した」
 バンクミーティングの様子を知る関係者によれば、「なんとかするから」とSMBC担当者が頼み込んでいたという。SMBCにとって、百数十億円の融資云々よりも、反社会的企業のメインバンクになっていた事実を糊塗するためにも、早急に小池排除に動きたかった。
 SMBCはこの直後にオープンハウスに声をかけている。同社のメインバンクもSMBCだが、小池は同業他社による買収に難色を示して「当初は逃げ回っていた」(情報筋)という。小池は八月に入って突如として入院するなど、抵抗を見せたが最終的にSMBCが押し切った格好だ。
 しかしこの強引なやり方にも批判の声が出ている。オープンハウスよりも高い価格を提示する可能性のある買い手はほかにもいたようだが、「SMBCは早期決着を名目に潜在的買い手によるデューデリジェンスすら受けつけず、(三栄建築側を)断念させる方向にもっていった」(別の関係者)。現に、一株二千二十五円というTOB価格は、一株あたりの純資産の約二千七百円を大きく下回る水準だ。SMBCが、オープンハウスに有利な条件で買わせるために動いたという利益相反の可能性も排除できない。
 SMBCの背後には、東京証券取引所の意向も見え隠れする。東証としては、プライム市場から反社取引を理由にした倒産や上場廃止の前例を出したくない。小池を早期に排除して暴力団問題を有耶無耶にしたいSMBCとしては渡りに船だった。
 そして三栄建築を引き受けるオープンハウスもコンプライアンス体制に懸念のある企業であることは周知の通り。このままSMBCの逃げ得を許すべきではない。金融庁はSMBCに舐められているという自覚を持つべきだ。
(敬称略)


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