三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月刊総合情報誌

連載

皇室の風 第200話

硫黄島で跪いた高松宮
岩井克己

2025年5月号

 怖ろしさが年月とともに次第に募ってくる。そんな体験だった。
 場所はフィリピン・コレヒドール島のマリンタ・トンネル内。平成28年(2016)1月、天皇・皇后(現上皇夫妻)が海外で散った戦没者らを悼む旅の最後としてフィリピンを訪問したとき、たまたま私的な用件で一部重なる日程でマニラに1カ月余り滞在し、一人で同島に出向いた時だ。
 マニラ湾口の小島コレヒドールはスペイン統治時代からマニラ防衛の要衝とされ、米軍はコンクリートで巨大な砲台や頑丈な兵舎などを建造して全島要塞と化していた。なかでも全長250mのマリンタ・トンネルにはマッカーサー司令部が置かれ、弾薬庫や大規模病院なども設置されて、弾薬を運ぶ複線の線路も敷設された堅固な大規模防空壕だった。
 日本軍の侵攻後、オーストラリアに逃れていた米軍が「リターン」して来て、5千を超える日本軍守備隊が玉砕した戦場跡の島は廃墟と化して戦争遺跡観光の名所となっている。砲台、兵舎跡、マッカーサー像などを巡って、多国籍の十数人のツアー・グループに加わりマリンタ・トンネル内に歩み入ってガイドに耳を傾けていた。
 長大・・・

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます