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連載

現代史の言霊  第85話

5月の決意-バルト三国の独立回復宣言 (1991年)
伊熊幹雄

2025年5月号

そんなものは時間の問題だ
リトアニアの青年

 今年4月半ばのことだ。ロシア大統領府のセルゲイ・ナルイシキン長官から、西側諸国に向けて極めて挑発的な威嚇が飛び出した。
「皆さんは分かっていないようだから、はっきりさせておこう」。
 脅し文句に続いて、「ロシアが北大西洋条約機構(NATO)軍から攻撃された場合、(ポーランドとバルト三国が)最初に苦しむ国々になる」と、長官はすごんで見せた。4カ国はいずれもNATO加盟国だが、西側の出方次第でお構いなしにロシア軍が侵攻することを、露骨に表現したのだ。
 長官はウラジーミル・プーチン大統領と同世代で、数十年もの親交がある。彼の言葉は、大統領の思考そのものだ。NATOとの有事の際には、ロシアはNATOで最も脆弱なバルト三国を攻めるというのだ。米欧諸国の「防衛義務」を歯牙にもかけないという脅しだ。
 三国とは、東からエストニア(人口約130万人)、ラトビア(同180万人)、リトアニア(同290万人)のこと。
 人口はそれぞれの最新統計だ・・・

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