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フランスが苦悩する「奴隷制賠償」

「人権の国」が抱える矛盾と欺瞞

2025年7月号

 世界で最も政情不安が深刻とされるカリブ海の島国ハイチ。前大統領が2021年に暗殺されてから治安が極度に悪化し、首都圏の8割をギャングが支配する。24年には9カ月間で3600人が殺害された。コレラが蔓延し人口の半分が食料不足に陥っている。その遠因が200年前にフランスが独立と引き換えに押し付けた債務にあるとしたら―。
 マクロン大統領は今年4月、この請求が不当なものだったとフランスの国家元首として初めて認めた。その上で、長期の債務返済でハイチが受けた影響を調査する専門家委員会を立ち上げる。ハイチ側はあくまで金銭的な賠償を求めており、奴隷制賠償の解決に向けた長い道のりが始まったに過ぎない。
 1789年のフランス革命に触発されたハイチの黒人奴隷らはナポレオンの遠征軍に勝利し、独立を宣言した。これを認めたくない仏の復古王政ブルボン朝最後の国王・シャルル10世は独立の承認と引き換えに当時のハイチのGDPの5年分に相当する1億5千万㌵の賠償金を要求。奴隷の搾取によってうるおった植民地収入の損失を、奴隷制の「被害者」に補填させるというものだった。フランス艦隊が海上から500門・・・

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