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連載

皇室の風 第206話

横路孝弘の遺言Ⅵ
岩井克己

2025年11月号

 横路孝弘元衆院議長に対する衆院事務局の聴取は、自社さ政権、民主党政権の時代の立役者の一人に対する28回に及ぶインタビューで、膨大な歴史的証言で織りなされたオーラルヒストリーである。
 それだけに国政で保守・革新を問わず共有されていた「戦後」の価値観の共通の土台であり、国是でもあった日本国憲法の平和主義、民主主義を貶め、その形骸化を強引に進めた安倍晋三政権に対する怒りが随所ににじんでいる。
 立法・司法の軽視。野党議員の質問に対し「つまらない質問だ」と議場で蔑む。いわゆる森友学園問題だけで139回、桜を見る会前夜祭の問題だけで118回に及んだ「虚偽答弁」。憲法とその解釈の根幹を強引に崩す閣議決定の乱発。警察官僚らを駆使した国家情報の私物化の疑いなど安倍政治への憤りに改めて言及し、この記録に刻んでいる。そして国と国民の今後の不透明な道筋と国政の行方の危うさに警鐘を鳴らす「遺言」の響きがある。
「安保法制に伴って最初に防衛省が始めたことは、防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会でした」
 それまでの国是ともされていた「専守防衛」の・・・

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