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連載

本に遇う 第31話

憚ることなき生き方
河谷 史夫

2026年1月号

 家じまい、実家じまい、墓じまいと、何でも「終う」のが流行る。このところ毎年何枚か、「賀状じまい」の通知が舞い込む。
 すでに年賀状を出さなくなって久しい。特に考えがあってのことではなかった。40代のころ、身辺に不幸が相次ぎ、何年か欠礼した。年賀はがきを買い込んで、歳末あたふたと決まり文句を書きつけて、ポストに走るというせわしなさから逃れた。その気分が捨て難く、生来の不精が重なってそのまま勝手にやめたのだった。
〈世に在らぬ如く一人の賀状なし〉という爽雨の句がある。出したのに、あいつからは来ない。だが元気にしていることは知っているのである。年に一度の安否確認をやりとりするか否かは、生き方の問題につながるだろう。
 横着なだけのわたしと違って、明確な信念のもとに賀状を書かないという人がいた。作曲家の團伊玖磨さんである。随筆家としても知られ、『アサヒグラフ』に「パイプのけむり」を36年間連載、雑誌が廃刊された翌年の2001年に77歳で死去した。生前、犬と賀状とダイレクトメールが嫌いだと公言していた。
「自分らしく居る。考える、生きる」が信条という團さ・・・

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