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連載

大往生考 第73話

支え合う運命の2人
佐野 海那斗

2026年1月号

「父の命日を忘れずにご連絡いただきありがとうございます。まだ納骨せず、毎日話しかけて過ごしています」
 LINEメッセージの送り主は高校2年生の女子だった。彼女の父であるA氏は、2024年末に膵臓がんで亡くなった。
 A氏と私が出会ったのは約30年も前になる。当時、私は駆け出しの内科医で、A氏は指導医だった。専門は循環器である。
 医師としての「センス」が光る人だった。
 感冒症状で70代の男性が受診した時のこと。血圧が105/65mmHgと若干低かった。私は気にも留めなかったが、A医師は「今日は少し変だから、一晩だけ入院にしておいて」と私に指示した。
 その晩、容体は急変した。集中治療室に移動し、九死に一生を得た。精査の結果、急性心筋炎と診断された。来院時に血圧が低かったのは、急性心筋炎の初期症状だったのだろう。A医師がいなければ、この患者は亡くなっていたはずだ。私はその眼力に舌を巻いた。
 臨床だけでなく、研究でも優れていた。診療の傍ら、多数の学術論文を発表し、「将来は大学教授」というのが周囲の一致した評価だった。
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