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連載

テイレシアスの食卓 vol.39

移ろいゆく「ガストロノミー」
河井 健司

2026年6月号

 嬉しいことに、このところ本誌読者の来店が多い。たまに遠来の客もある中で、先日は宮古島にお住まいの読者をお迎えした。ご足労いただいたにもかかわらず、営業中は他客との兼ね合いで、お相手する時間が限られてしまう。おそらくは、いささか拍子抜けされたことだろう。ひょんなことから筆を執ってはいるものの、筆者の実体は一介の中年料理人。日々権力と闘う本誌編集長とは違い、貫禄や風格をまったく持たないありふれたおじさんだ。それでも、店名に「フランス料理研究室」と、添えているからか、フランス文化に造詣が深い人たちにご来店いただくこともある。
 こうした中で、先月は某大学に在籍する本物の研究者から、フランス文化に関する博士論文を頂戴した。その内容は、ブリヤ=サヴァランの著作『味覚の生理学』(邦題『美味礼讃』)が、バルザックの初期作品に与えた影響について。とりわけ、食と性に着目している点は興味深い。
 この論文を拝読してすぐ思い出したのは、フランス料理の古典を翻訳した際に、師事した先生の言葉。「日本では、文系の研究分野において、食と性の関係、いわば生の根源に関わる研究は、遠ざけられる傾向に・・・

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