大往生考 第82話
ヤブ医者も時には必要
佐野 海那斗
2026年10月号
どれほど素晴らしい女性と結ばれようと、男が一番愛する女性は母親なのかもしれない。最愛の人とも、いつかは別れの日がくる。それは人生で最も受け入れ難い現実の一つだ。揺れ動く心の模様を、最近、間近で見る機会があった。
その知人は60代の男性だった。大学進学を機に上京し、大手企業でキャリアを重ね、取締役まで上りつめた。社内外での評価も高く、マスコミに登場することもある。
故郷は日本海側の地方都市で、そこに80代の母親と妹が暮らしていた。今春、母親が子宮体がんと診断された。地元の病院に入院し、精密検査が始まった。
それを機に、知人から頻繁にLINEが届くようになった。「手術はできそうですが、中止になる可能性もあるそうです」「急に悪くなることもあると言われました」。主治医の説明を聞くたびに不安が募り、知人が動揺する様子が伝わってきた。
重い病気を説明するとき、医師は最悪の可能性に触れる。家族への説明では、なおさらだ。あとで「聞いていなかった」とならないためである。ただ、家族は「可能性」として示された話を、「これから起こること」と受け止めがちだ。知人・・・
その知人は60代の男性だった。大学進学を機に上京し、大手企業でキャリアを重ね、取締役まで上りつめた。社内外での評価も高く、マスコミに登場することもある。
故郷は日本海側の地方都市で、そこに80代の母親と妹が暮らしていた。今春、母親が子宮体がんと診断された。地元の病院に入院し、精密検査が始まった。
それを機に、知人から頻繁にLINEが届くようになった。「手術はできそうですが、中止になる可能性もあるそうです」「急に悪くなることもあると言われました」。主治医の説明を聞くたびに不安が募り、知人が動揺する様子が伝わってきた。
重い病気を説明するとき、医師は最悪の可能性に触れる。家族への説明では、なおさらだ。あとで「聞いていなかった」とならないためである。ただ、家族は「可能性」として示された話を、「これから起こること」と受け止めがちだ。知人・・・









