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連載

皇室の風 連載18

よみがえる光厳天皇
岩井 克己

2010年2月号

 皇位を担う覚悟について、天皇が直々に皇太子に訓戒した「帝王学」の書として有名なのが『誡太子書』だ。鎌倉時代、歴代きっての文化人とされる花園天皇が甥の皇太子量仁親王(後の光厳天皇)の元服の際に贈った。南北朝の争乱前夜の危機感にあふれ、格調高くも峻烈だ。
「苟くも其の才無くんば、其の位に処るべからず、人臣の一官も、之れを失はゞ猶ほ天事を乱ると謂ふ。(略)慎まざるべからず、懼れざるべからざる者か。而るに太子は宮人の手に長じ、未だ民の急を知らず。常に綺羅の服飾を衣、織紡の労役を思ふこと無し。鎮へに稲梁の珍膳に飽き、未だ稼穡の艱難を辨へず、国に於て曽て尺寸の功無く、民に於て豈に毫釐の恵み有らんや。(略)徳無くして謬りて王侯の上に託し、功無くして苟しくも庶民の間に莅む、豈に自ら慙ぢざらんや」(岩橋小弥太『花園天皇』)
 そして、我が国は「皇胤一統」で「異姓簒奪」の恐れはないと愚人は言うが、大いなる誤りであるとして安易な姿勢を戒め、数年の内にも「国日に衰へ、政日に乱れ、勢必ず土崩瓦解に至らん」と予言。天皇たる者、学に励み、徳を磨き、祭祀を大切にして厚徳を百姓に加えよと説いている・・・