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中国は共産主義にこだわらない

加藤 徹(明治大学教授)

2010年3月号公開

 ―中国共産党の下で資本主義がうまくいっているように見えるが?

 加藤 中国はホンネとタテマエを使い分ける国だ。タテマエとしてはいまだ毛沢東路線だが、ホンネでは自分たちが共産主義とも社会主義とも思っていない。自分たちが世界一になれれば資本主義でも何でもいいと思っている。
 二百年前、アヘン戦争以前の清朝時代、中国の国内総生産(GDP)は世界全体の三分の一を占めていたといわれる。経済も領土も、その時代の中国を取り戻すことが彼らのホンネなのだ。
 中国共産党というのは血みどろの戦いを生き抜いてきた、世界に類を見ない強い党だ。そのトップも権力闘争に勝利した強者。党も人も強くなければ国もダメになると民衆も思っている。
 支配党でなかった時代から、共産党には抜群の宣伝力があった。かつては「帝国主義勢力を追い出し人民を圧迫する封建的な地主から解放する」、今は「いずれ中国のGDPはアメリカを超える」という「夢」を国内外に見せることによって、カネをかき集めてきた。それが今の成功につながっている。

 ―夢でカネを集める、と。

 加藤 中国では富は外から持ってくるものだという考え方が一般的だ。とにかくカネを集めた者が勝ち。集めたカネは一極集中させる。まぎれもなく史上最大の開発独裁国家だ。
 中国には「大河有水小河満」(大河が満ちれば小川も満ちる)という諺がある。タテマエでは「農村を大事に」「軍事部門だけでなく民間の福祉部門にも力をいれよう」などと言っているが、そんなことをしたら小川も干上がるということを誰でも知っている。
 直接選挙による民主主義は中国には馴染まないと共産党は宣伝しているし、人民も受け入れている。仮にもし「農村にこそ富を」と唱える候補者が大量の農村票を獲得して富を均等に分散したらどうなるか。ホンネでは庶民も民主主義は時期尚早だと思っている。
 反乱を繰り返してきた少数民族さえも、一人っ子政策の免除や名門大学への優遇枠というアメを与え、うまく抑え込んでいる。少数民族エリートの取り込みを図るための大学優遇枠ではあるが、その恩恵にあずかるために少数民族と結婚する漢民族も増えるなど、党も民衆もお互いにしたたかだ。

 ―この仕組みはいつまで続く?

 加藤 中国人は変化を是とする。一世代ごとの大変化を厭わない。中国四千年の知恵というが、共産党の歴史はたったの九十年。中国国内で共産党員だった人が外国に移住しても熱心な党員かというとそういう例は少ない。軍事力でも資金力でも一番になりたい中国人は、いざとなれば共産党すらためらいなく捨てるだろう。
 将来、億単位の人口で高齢化が進む中国に対して、成長を疑問視する論者は多い。しかし、それは中国の本当の強さを理解していない。彼らの最大の武器は上手に夢を見せること。世界一という夢を掲げてヒト、モノ、カネを国に引き込む。毛沢東は「鉄砲から政権が生まれる」と言った。中国は多数の餓死者が出た貧しかった時代でも核武装に国力を集中した国だ。党軍一体の政治力で超大国になる夢を実現する。タテマエである共産党は上手に夢を掲げているかぎり続くが、仮に共産党が崩壊してもタテマエだからそれ自体は構わない。大事なことは、国がホンネの部分を実現してくれるのか。その点において、中国人は現実主義者である。

〈インタビュアー 編集部〉


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