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社会・文化

水源林を外資の食指から守れ

安田 喜憲(国際日本文化研究センター教授)

2010年4月号公開

 ―小誌二月号でも紹介したとおり、日本の貴重な水源林に外資が食指を伸ばしています。

 安田 各地で買収の動きは次々に報告されている。特に水事情が厳しい近隣の中国の動きが活発であり、紀伊半島など日本列島の各地を調査した中国人視察団の動きもある。三重県や長野県での買収話は紹介されているとおりだが、首都圏近郊でも、埼玉県の山林地域に一山全部の買収話が海外からきたり、山梨県でも立木ではなく山そのものを目的とした買収案件があったと聞く。このほか北海道の道東地区や青森県の三八上北地区、九州の阿蘇など外資による山林売買の噂は後を絶たない。まさに市場原理主義の中で、グローバル資本が投機の対象として日本の水源林を買い占めに来ている状況だ。

 ―かけがえのない国土が侵食されていることへの危機感が全くない。

 安田 果たして自分の国土を大事だという意識がどこまであるのか疑問だ。日本の森林売買の危機を語るとき、日本国内でも「ニューヨークの摩天楼を買っているのと同じではないか、何が悪いんだ」という意見まで出ている。水源林を売るということは日本に暮らす者の生命の基本を売っているのと同じということを全く理解していない。私は今の時代は、明治維新、第二次大戦敗戦に続く、日本の漂流「第三の危機」だと指摘している。市場原理主義の中で浮き彫りになった第三の危機は、生命の根源たる森林が侵食されている点において、過去の危機よりも深刻だ。森は神話時代からずっと日本人が守ってきたもので、それなくして森の環境国家たる日本の存続はない。外資による森林売買も、文明史の中で位置付けて初めてその深刻さが理解できる。日本の有識者でさえ森林買収の事実を知らない。それが今の日本の漂流の姿だ。

 ―これに対し、国や行政は何をしていたのでしょうか。

 安田 戦後間もなくは森林資源が非常に高値で売れ、金が儲かったことから、国は林野庁を独立採算にしてしまった。森林を何平米いくら、というように経済価値のみで捉えるようになってから、林野行政がおかしくなった。行政の罪深さは、戦後一貫してコメも農地も守ってきたのに、林野は全く守らなかったことだ。本当に農地を守るなら、水源である林野こそ守らなければならない。

 ―水源林保護のために喫緊の課題は何ですか。

 安田 林野をしっかり守る「林野法」のような法制度をまず整備して水源林は外国人には売れないと堂々と宣言し、むやみに外国人が林野を買えない法律を作る以外にない。また水源林を守るということが日本の国家百年の大計だという認識から、水源林の公有化などへ国民の税金を使うべきだ。

 ―そのためには広く国民への啓蒙活動が必要ですね。

 安田 国民の合意がなければ林野に特別の保護を与えるなど無理だ。また自由に林野を売れない法律ができたならば森林所有者も不満だろう。また逆に林野だけを保護すれば、他の土地所有者の反発もあろう。その意味でも生命や文化、伝統の源である森の重要性を周知させる国民運動が必要だ。今は資源争奪戦争の時代だ。水はタダだと思っている平和ボケの日本人が多いが、日本の水資源も間違いなく各国の標的となりうる。今すぐ行動を起こさなければ、手遅れになってしまう。

〈インタビュアー 編集部〉


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