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EUを揺るがす仏「ロマ人排斥」

問い直される共同体の「人権理念」

2010年10月号

 今年夏以降、フランス政府がキャンプ生活するロマ人一千人以上を集中的に摘発し、国外に退去させた波紋が、欧州連合(EU)全体に広がっている。欧州最大の少数民族とされるロマ人は長年、差別され、居場所を追われてきた。フランスの措置は、加盟国国民に域内の自由な移動を保障するEU法に違反する疑いがあるが、イタリアなど同調する国もあり、他の加盟国も様子眺めの様相が強い。「人権先進地」を自負するEUだが、足元のロマ人をめぐる状況を全く改善させてこなかった現実がある。
 欧州委員会の推計によると、EU加盟国と将来、EUに加盟する可能性のある地域には一千万~一千二百万人のロマ人がいる。ジプシーとも呼ばれ、独自の言語をもつロマ人は、もともといたルーマニア、ブルガリア、バルカン半島などから冷戦終了後、西欧側に流入するようになったが、行った先でも差別にさらされ職を得ることも難しく、物乞いなどしか生き抜く手段がないと言われている。

欧州の「闇の部分」


 フランスのサルコジ大統領は七月、仏中部で移動生活者の男が警・・・