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連載

皇室の風43

「世直し神」としてのアマテラス
岩井克己

2012年3月号

 

明治二十(一八八七)年、当代随一の法制官僚と言われた井上毅の頭脳に、『古事記』のオオクニヌシの国譲り神話の一節が降りてきた時の様子を前回書いた。

 井上は宮内省図書頭として帝国憲法起草のため先進欧州諸国の国法を渉猟しつつも天皇による独自の統治理念を探しあぐねていた。古事記の記述の「シラス」というキーワードに出会った井上は雀躍し、雪中を鎌倉から藤沢まで駆け抜けて帰京し、帝国憲法第一条案を起草した。

「日本帝国ハ万世一系ノ天皇ノ治ス所ナリ」(憲法初案)

 このエピソードに筆者が想起したのは、フランスの人類学者レヴィ=ストロースが神話的思考についての自らの研究について残した次のような言葉だ。

「私がここで示したいと思うのは、人間が神話のなかでいかに思考するかではなく、神話が人間のなかで、人間に知られることなく、いかに思考するかである」(『生のものと火にかけたもの』)


 君主の私権を排し公権による統治を意味する「シラス」の理念に捉えられた・・・