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WORLD

「ミャンマー民主化」に思わぬ障壁

少数民族問題という地雷

2012年7月号

「私にはわかりません」  ロヒンギャ族はミャンマー人とみなされるか。この質問に対して、二十四年ぶりに欧州を訪問したアウンサンスーチー氏は、曖昧な姿勢に終始した。 「国を持たぬ人々」と呼ばれ、世界で最も悲惨な難民の一つとされるロヒンギャ族。六月に入り、ミャンマー西部ラカイン州で、ラカイン族を中心とする仏教徒と、イスラム教徒であるロヒンギャ族の衝突が俄かに激しくなった。五月下旬に、仏教徒の女性が三人のイスラム教徒にレイプされた事件を発端とした今回の衝突は、テインセイン政権が非常事態宣言を出すまでに至った。確認されているだけで八十人以上の死者と、九万人に上る難民を生みだしている。 「仏教徒とイスラム教徒の対立」という表現は正確ではない。国籍を持たぬロヒンギャ族に対し、ミャンマー国民であるラカイン族とその背後にいるビルマ族が攻撃を加えている正真正銘の民族紛争だ。  二十一年前のノーベル平和賞受賞スピーチのために訪れた欧州で、自国で弾圧される少数民族について、スーチー氏がコメントを求められるのは至極当然の成り行きだ。 「ロヒンギャの一部は、実際にはビルマ出身ではなくバン・・・