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WORLD

WTO「空中分解」の瀬戸際

米国の狂気が最大の脅威に

2018年7月号

 スイスのジュネーブは静かな街だ。「パレ・デ・ナシオン」と呼ばれる国連欧州本部の荘厳な建物をはじめとして、多くの国際機関が集まる。
 世界貿易機関(WTO)もその一つ。正面玄関から続くホールを抜けると、スイスアルプスを背後に従えたレマン湖が広がる。この建物では戦後多くの自由化交渉が行われたが、激論を戦わせた各国の担当者はこの絶景に癒やされてきた。
 しかし、現在、心ある関係者にこの風景を愛でる余裕はないだろう。設立以来最大のピンチを回避しようと必死なのだ。
 今年三月、WTO一般理事会議長に就任した日本政府の伊原純一在ジュネーブ国際機関代表部大使もその一人。一般理事会はWTOの中で一番重要な会合だ。議長はその「仕切り役」として重責を担う。
 伊原大使は各国のカウンターパートやWTO事務局にも積極的に足を運び対応策を議論しているが、最近は「二国間交渉を重視するトランプ米大統領の姿勢が、WTOなど多国間システムを破壊する方向で動いている」と周辺に漏らす機会が多い。

紛争処理機能を麻痺させる米国{・・・