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連載

大往生考 第3話

がん専門医が末期がんになった時

2020年3月号

 二十年ほど前の話だ。四十代半ばの男性医師から相談を受けた。消化器内科医で、消化器がんに対する抗がん剤治療が専門だった。
 彼は私に自らが大腸がんを患っていることを告げた。がんは他臓器に転移しており、「標準治療法では治癒の望みはない」と言う。
 当時、進行した大腸がんに対する標準治療は複数の抗がん剤を組み合わせて投与することだった。免疫チェックポイント阻害剤はもちろん、分子標的治療薬もなく、進行がんと診断されれば、余命は数カ月だった。
 彼は私に「免疫療法を受けたいと思うが、どうだろうか」と相談してきた。
 小野薬品工業がオプジーボを開発し、本庶佑・京都大学特別教授がノーベル医学生理学賞を受賞した現在では考えられないが、当時、がんの免疫療法を本気で信じている医師はごく少数だった。
 がん免疫の基礎研究はともかく、古くは丸山ワクチンから活性化リンパ球療法まで、がん免疫療法をやっていると言うと多くの医師から胡散臭いと思われた。
 友人が関心を寄せたのは、他人の免疫細胞を用いてがんを治療する同種免疫療法だった。
 白血病に・・・