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連載

現代史の言霊  第33話

一月の惨劇 -一九九一年リトアニア「血の日曜日」-
伊熊 幹雄

2021年1月号

《裁かれているのは共産主義そのものだ》
ビタウタス・ランズベルギス(元リトアニア最高会議議長)

 一九九一年一月。筆者はモスクワの同僚から「リトアニア情勢が緊迫してきた。すぐに首都ビルニュスに入ってくれ」と指示された。筆者がいたポーランドの隣にあり、当時はソ連を構成する十五の共和国の一つだった。
 同僚はロシア語が堪能で、独自の情報網があった。真っ先にビルニュス入りし、やがて在ウィーンの特派員も合流。三人態勢は当時、よほどの大事件対応であった。
 言葉も分からないので、通訳確保が最初の仕事だ。二十代半ばの女性が見つかった。ロシア語、リトアニア語、英語に加え、ポーランド語も堪能だった。「なぜ、そんなに出来るのか?」と驚くと、「ポーランドの放送のほうが面白いので、いつも見ているから」と言う。得心して、自分でも語学習得のため各国のテレビをよく見たが、一つとしてものにならなかった。
 リトアニアは、バルト海に三つ並ぶ「バルト三国」の南端である。首都ビルニュスには、中世の趣を残す旧市街がある。殺風景で・・・