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連載

本に遇う 第272話

一寸先はまことに闇
河谷 史夫

2022年8月号

 七月四日、テレビで『七月四日に生まれて』をたまたま見た。
 一九六〇年代のベトナム戦争で海兵隊を志願した青年が重傷を負い運命が激変する。下半身不随の帰還兵は反戦デモに参加、機動隊に車椅子をひっくり返されながら「我々はベトナムで兄弟を殺している」「北爆をやめろ」「政府は嘘つきだ」と叫び続ける。実話に基づく映画化は八九年だった。
 こんな作品がロシアでも出来ないか。政府の言うことを信じて、多くの若者が最前線に出ているはずだが、今に「ウクライナの非ナチ化」を掲げるプーチンの「嘘」に気づく時が来るだろう。五十年前にアメリカで起きた反戦デモがロシアでも起きるといい。歴史よ、繰り返せ。そう念じていたところ、日本で歴史が逆流するような事件が起きたからびっくりした。
 七月八日、元首相が狙撃されて絶命した。たまたまテレビを点けたとたん「安倍晋三元首相撃たれる」と速報が流れて画面を見続ける羽目になり、これと同じく動けなかった日のことを思い出した。
 七〇年十一月二十五日である。三島由紀夫が自衛隊の市ヶ谷駐屯地で割腹自決した。可はなく不可ばかりだった駆け出し記者は・・・