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経済

株主提案「否決後」の企業は狙い目

総会シーズンの新たな見所

2025年6月号公開

 今年も2025年3月期決算企業の株主総会シーズンがやってきた。株主総会と言えば、最近の「はやり」は、株主提案だろう。東京証券取引所の適時開示情報閲覧サービス「TDnet」では毎日、株主提案に反対という上場企業によるプレスリリースが数多く出てきている。
 既に終えた24年12月期決算企業の3月総会シーズンでは株主提案が過去最多となった。6月総会シーズンでも同様に過去最高水準の株主提案が飛び交うことになるのはほぼ確実だ。
 だが、株主提案が通ることは滅多にない。今年の3月の株主総会でも、香港のアクティビスト、オアシス・マネジメントが花王やDICに出した取締役選任議案などの株主提案が、ほかの株主の支持をほとんど得られず惨敗したのは記憶に新しい。
 またサッポロホールディングス(HD)の筆頭株主として、2割近くの株式を保有するシンガポールの3Dインベストメント・パートナーズが、元東芝社外取締役のポール・ブロフ氏の社外取締役選任を求めた株主提案も、賛成が3割にも満たず否決された。2割を持つ筆頭株主であっても、全く歯が立たないのが株主提案の実態だ。
 株主提案が可決された事例は少ない。昨年で言うと国内系アクティビストのストラテジックキャピタルが、衣料品ブランド「ニューヨーカー」を手がけるダイドーリミテッドに対して複数の候補者を立てて取締役選任議案を出し、一部が可決された。
 また一昨年は、任天堂創業家の流れを汲む投資家が起こした、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)が東洋建設に同じく複数の取締役の選任議案を出し、一部が通った。しかし所詮はこの程度。過去の事例は数えるほどしかない。
 株主総会対策を手がける信託銀行関係者は「株主提案が可決される例は1%未満だろう」と断言する。それだけまだハードルが高いのだ。

のちに「丸呑み」

 だがこれを悲観する必要はなさそうだ。株式市場の一部では、否決された株主提案の効用に目をつける動きがある。それが「株主提案は負けるが勝ち。コバンザメ投資はかなり有効な戦略」(ある個人投資家)という。
 どういうことか。この個人投資家は株主提案が否決されて改革期待が後退し、株価が下落した時を買い場と見定めて株を買い増す。それだけだ。あとは1年ほど「果報は寝て待て」とばかりに放置。それでかなりのリターンを上げた銘柄が複数ある。
 具体的に事例をみてみよう。例えば江崎グリコ。2024年の株主総会で米ダルトン・インベストメンツは、配当を取締役会決議ではなく総会決議でも決められるように定款を変えろという株主提案を出した。この提案は否決されたものの43%もの賛成票を集めた。
 そしてグリコは25年、株主総会の会社提案としてほぼ同様の議案を出した。つまり1年後にダルトンの提案を丸呑みしたのだ。
 もちろんこの議案は会社提案のため、何の波乱もなく今年3月の株主総会で可決された。昨年3月の株主総会直後、4千円程度まで下がったグリコの株価は今年に入り4500~5千円のレンジで推移する。
 ゼネコンの大林組も様相は似ている。23年の株主総会で英シルチェスター・インターナショナル・インベスターズが増配や取締役選任を求める株主提案をしたが、否決に持ち込んだ。大林組はその後、24年3月期の配当を大幅に増やし、ROE(自己資本利益率)の目標も「中期的に8%以上」としていたものを「27年3月期までに10%以上」と修正した。株主の目を意識した姿勢変更に市場は反応。株価は急騰し、PBR(株価純資産倍率)1倍以上になった。
 株主提案ではなく、アクティビストによる公開キャンペーンでも同様の事象は起こる。象徴的な事例が前出のサッポロHDだ。今年の株主提案は否決されたが、3DはサッポロHDに対して昨年も株主提案を出していた(その後、総会前に取り下げ)のは昨年の弊誌3月号で報じた通りだ。
 3Dは昨年初めから大々的に公開キャンペーンを展開、不動産事業を売却して本業のビールに集中しろと言っていたわけだが、サッポロHDはそのときは拒否しつつも、最終的に昨年後半から不動産事業の売却オークションを開始した。
 共通しているのは、アクティビストにアレコレ言われているときは全面拒否しながらも、株主総会を終えてアクティビストが静かになったら、その要求を実行に移すパターン。「企業経営者はアクティビストに屈したとみられたくないが、一方でその要求は正論。だから対決構図が収まった後に動き出す傾向がある」(前出の信託銀行関係者)。
 つまり株主提案が否決された場合、むしろ投資の観点から言うとそこから買い場が始まるということになる。例えば大林組。2年前の株主総会で株主提案が否決されたころの株価は1200円前後。足元では2千~2300円程度で推移している。

注目の「親子上場解消」要求

 こうしてみると、まさに株主提案は否決されてからが勝負、と言っても過言ではないだろう。では今年の株主提案はどうだろうか。
 親子上場問題で騒いでいるのがストラテジックキャピタルだ。日産自動車と日本製鉄に対し、親子上場を解消しろと要求している。日産と日鉄はもちろん、株主提案には反対の姿勢を示している。
 ストラテジックキャピタルの丸木強代表は「(日産の上場子会社の)日産車体は日産の一工場に過ぎないのに上場しているのはおかしい」とインタビューで答えている。奇しくも日産は経営不振で国内外の工場閉鎖方針を発表しているが、日産車体の湘南工場はその候補の一つ。親会社の都合で子会社の主力工場が閉鎖されようとしているのだ。丸木代表の懸念は的中しようとしている。
 日産は資金繰りが厳しいため、今のまま日産車体を完全子会社化するのは難しいかもしれないが、「湘南工場を閉鎖売却して日産車体の企業規模を半分以下に縮小すれば完全子会社化も無理ではないかもしれない」(証券会社幹部)との見立てもある。日鉄も「米USスチール買収に決着がつけば、上場子会社の日鉄ソリューションズの完全子会社化に手をつけるかもしれない」(鉄鋼会社幹部)との声があがる。
 このほか株主還元系ではダルトンがスクウェア・エニックス・ホールディングスやヤクルト本社に自社株買いなどを株主提案している。もちろん今年の総会で株主提案は否決されるのだろうが、1年後、両社は還元強化銘柄として注目を浴びている可能性はあるのだ。


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