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連載

大往生考 第6話

友の情けに見送られて
佐野 海那斗

2025年7月号

 私が勤務する病院の事務長が「部下だったMが亡くなった」と知らせてくれた。呼吸苦を訴え、通院していた大学病院を受診したところ、そのまま入院となり、翌朝、心不全で息を引き取ったという。
 事務長とMさんは親族ではない。病院が事務長に連絡したのは、Mさんが緊急連絡先として事務長の携帯電話番号を大学病院に届けていたためだ。Mさんは生涯独身で、身寄りがなかった。
 事務長は50代後半。関西の国立大学を卒業し、公務員になった。Mさんは5歳年上だった。関東の私立大学を卒業し、百貨店に就職した。20年ほど前に仕事を通じて知り合い、意気投合したらしい。
 二人の関係が変化したのは5年前、Mさんが悪性リンパ腫を発症した時だ。びまん性大細胞型というタイプで、診断時のステージは3だった。進行しているが、医療の進歩により、適切な治療で治癒は十分に望めるようになった。国立がん研究センターによれば、この状態での5年全生存率は60〜70%だ。
 当時、Mさんは百貨店の課長職で多忙な毎日を送っていた。「会社に迷惑をかけたくない」と退職し、闘病に専念した。抗がん剤治療は奏功し、悪・・・

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