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連載

をんな千一夜 第103話

男を焼きつくした人生
石井 妙子

2025年10月号

 男ひとりに多くの女―というのはありふれた話だ。だが、その逆となると、あまり聞かない。夫を持つ女が他に男をつくれば、江戸時代ならば極刑。明治以降も姦通罪が適用された。
 そのような社会下で自我を貫き通した岡本かの子の生涯は、激しく強烈である。
 1970年の大阪万博で「太陽の塔」を制作した芸術家の岡本太郎はこの母に大きな影響を受けた。彼の有名なフレーズ「芸術は爆発だ」にも、この母の生涯を肯定する、彼の強い思いがにじんでいる。
「ぼくが芸術というのは生きることそのものである。人間として最も強烈に生きる者、無条件に生命をつき出し爆発する、その生き方こそが芸術なのだということを強調したい。芸術は爆発だ。(中略)人生は本来、瞬間瞬間に、無償、無目的に爆発しつづけるべきだ。いのちの本当のあり方だ」(『自分の中に毒を持て』)
 母かの子こそ、まさに爆発して命を燃焼させた人だった。
 かの子が生まれたのは明治22(1889)年。生家の大貫家は神奈川県橘樹郡(現・川崎市高津区)一帯の大地主であり、御用商人も務めて名字帯刀を許された家柄だった。浮世離れし・・・

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