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連載

金融の世紀

第37 回【「強欲投資家」アイカーンの登場】
黒木 亮

2026年1月号

 米国で第4波のM&Aブームが起きてまもない1970年代後半、全米のCEOから最も恐れられるコーポレート・レイダー(企業襲撃者)として登場したのがカール・アイカーンだ。1987年の映画『ウォール街』でマイケル・ダグラスが演じた強欲投資家、ゴードン・ゲッコーのモデルの一人にもなり、第1次トランプ政権では規制改革担当特別顧問も務め、89歳の今も現役である。
 生まれは1936年で、ニューヨークのロング・アイランド島の南東寄りの雑多な人種が住むクイーンズ区ヘイズウォーターで育った。父親は健康を害して引退した元弁護士、母親は公立学校の先生という中流のユダヤ人家庭だった。両親はともに若い頃、音楽の道を志し、父親は無神論者だったが、ユダヤ教の礼拝堂で祈祷文の独唱部を歌う朗詠者(cantor)を務めていた。
 アイカーンは、地元のファーロッカウェイという平凡な高校から(一説には同校出身者で初めて)名門プリンストン大学に進み、哲学を専攻して優秀な成績で卒業した。母親の強い希望でニューヨーク大学医学部に進んだが、医学が好きになれず、2年半で中退。
 その後、陸軍の予備役(医・・・

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