三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月刊総合情報誌

連載

大往生考 第74話

防げるがんで死ぬ無念
佐野 海那斗

2026年2月号

 救えたかもしれない患者を失った時、医師の悔恨は深く重い。患者が若ければなおのこと、自責の念が募る。
 患者のAさんは、まだ30代半ばの女性だった。彼女と初めて会ったのは、2013年の夏のこと。彼女の伯父から紹介された。
 伯父は70代。高血圧の治療のため、私の外来に通っていた。高校卒業後、新潟から単身上京し、裸一貫で医療関連の事業を起こした。パワフルで、人情味が厚い、昔気質の人である。「社員のお母さんががんと言われた。良いお医者さんを紹介してもらえないか」といった相談を何度も受けてきた。
 Aさんは、高校生の時に父親を心筋梗塞で亡くしていた。母親は伯父の妹にあたる。Aさんは「伯父が私たち母子の面倒をみてくれた」と振り返る。
 Aさんは大学を卒業した14年に、伯父の会社に就職する。信頼できる親族の入社は嬉しかったようだ。「姪を紹介したい」と言って、私との会食をセットしてくれた。
 Aさんは笑顔が印象的な快活な女性だった。入社後は自社の事業である医療について熱心に勉強している様子で、医療に関する様々な質問を受けた。
 この時、ヒ・・・

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます