本に遇う 第318話
熊の言葉が分かれば
河谷 史夫
2026年6月号
定年退職後、にわかに短歌や俳句や川柳を始める人がいる。ときに私家集御恵投の栄に浴して、こんな趣味があったのかとあらためて見直したりする。
わたしが五七五や五七五七七に手を出さないのは、「戦いと飢えで死ぬ人間がいる間は/おれは絶対風雅の道をゆかぬ」(「やせた心」)と言った詩人の中桐雅夫に倣ったというよりも、ただ才がないゆえだが、それでも歳時記は持っていて何かにつけて開く。これはむかし新聞でコラムを書いていた頃の習性かとおもえる。
「猪」は秋の季語で、晩秋のころ、夜になると決まった猪道を通って歩き回る。鼻で地面を掘って小動物や植物の根を探し、また田畑の稲や甘藷を食い荒らす。肉は俗に山鯨と称し、脂肪に富んでうまいという。
これが去年の晩秋、わたしの住んでいる千葉県は浦安に出たのである。町内会の一斉清掃が明日の朝に予定された土曜日の夕刻、回状が回ってきて急遽「清掃は中止」となった。猪が海へ向かう通りを走っている映像が、SNSで流れたというのであった。
浦安というのは、もともとは4・43㎢だったのが2度にわたる東京湾埋め立てで4倍の18・79㎢に膨・・・
わたしが五七五や五七五七七に手を出さないのは、「戦いと飢えで死ぬ人間がいる間は/おれは絶対風雅の道をゆかぬ」(「やせた心」)と言った詩人の中桐雅夫に倣ったというよりも、ただ才がないゆえだが、それでも歳時記は持っていて何かにつけて開く。これはむかし新聞でコラムを書いていた頃の習性かとおもえる。
「猪」は秋の季語で、晩秋のころ、夜になると決まった猪道を通って歩き回る。鼻で地面を掘って小動物や植物の根を探し、また田畑の稲や甘藷を食い荒らす。肉は俗に山鯨と称し、脂肪に富んでうまいという。
これが去年の晩秋、わたしの住んでいる千葉県は浦安に出たのである。町内会の一斉清掃が明日の朝に予定された土曜日の夕刻、回状が回ってきて急遽「清掃は中止」となった。猪が海へ向かう通りを走っている映像が、SNSで流れたというのであった。
浦安というのは、もともとは4・43㎢だったのが2度にわたる東京湾埋め立てで4倍の18・79㎢に膨・・・









