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連載

本に遇う 第321話

戦後詩の長女と天皇
河谷 史夫

2026年9月号

 この夏、久しく避けていた東京の渋谷へ行った。女性詩人の詩に曲をつけて歌う吉岡しげ美のコンサートに出かけたのである。半世紀眠っていた金子みすゞの遺稿が発見された物語を記事にしたとき、「みすゞのことを知りたい」と連絡してきて以来の仲だ。
 渋谷敬遠の理由は駅周辺の大改造である。案の定だった。ビルが建て替わり、鉄道各線のホームが上下左右に移動していた。行き惑いながら、渋面の蓮實重彥が苛立っていた話を思い出した。
「わたくしのような後期高齢者」と自称する「映画評論の帝王」は、乗り換えが不便だとかなじみの書店やカフェが消えたこと、さらに醜い高層建築の愚かさを挙げて、「こうした無惨な事態は、再開発とやらが原因だ」と、『ちくま』で毒突いておられた。
 暑さと雑踏のなかで、確かに後期高齢者の来る街ではなかったと後悔した。詩人によっては後悔が作品の源泉となるらしいが、わたしに詩作の才はない。
 詩とは志を述べるものだ、と中国では言うけれど、「詩人が人々に供給すべきものは、感動である」と言った谷川俊太郎によれば、「詩人は感動によってのみ詩を生み、感動によって人々と・・・

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