をんな千一夜 第114話
昭和の名優を生んだ「姫」
石井 妙子
2026年9月号
大ヒットした映画『国宝』を見て、私はある点で違和感を覚えた。血筋というものが何より重要視され、それが延々とこの世界に続く伝統であるかに描かれていたからだ。実際には実子による世襲が定着するのは戦後のことで、決して江戸時代から続く慣習ではない。政治家が世襲化し、2世3世ばかりになったのも平成以降のことだが、このような近代化に逆行した「血脈主義」が生まれるのは、その世界が競争力を失っている証左ではないだろうか。
戦前の名人たちは芸によって、大名跡を襲名した。昭和の名優と呼ばれた15代目市村羽左衛門もそのひとりで、14代の実子ではない。
切れ長の目、鼻筋の通った彫りの深い顔立ち、七頭身と言われた姿態。彼が出てくるだけで舞台が明るくなる。「照明いらず」と言われた大スター。「花の橘屋」と称えられた。そんな彼には、「外人の血が流れている」という噂がつきまとった。明治7(1874)年生まれ。今のように「ハーフ」と持てはやされる時代ではない。人気役者にとって、この噂は決して有難いものではなかった。また彼の出生が明らかになれば実母や実妹にまで好奇の眼が及ぶ。そのため真偽は長く伏せ・・・
戦前の名人たちは芸によって、大名跡を襲名した。昭和の名優と呼ばれた15代目市村羽左衛門もそのひとりで、14代の実子ではない。
切れ長の目、鼻筋の通った彫りの深い顔立ち、七頭身と言われた姿態。彼が出てくるだけで舞台が明るくなる。「照明いらず」と言われた大スター。「花の橘屋」と称えられた。そんな彼には、「外人の血が流れている」という噂がつきまとった。明治7(1874)年生まれ。今のように「ハーフ」と持てはやされる時代ではない。人気役者にとって、この噂は決して有難いものではなかった。また彼の出生が明らかになれば実母や実妹にまで好奇の眼が及ぶ。そのため真偽は長く伏せ・・・









