大往生考 第83話
認知症がくれた「贈り物」
佐野 海那斗
2026年11月号
NHKの看板番組で、認知症の治療と予防に関する番組をみた。病気の進行を遅らせる新薬や、脳の免疫細胞が発症に関わるという研究成果、さらには遺伝子治療の可能性も紹介されていた。
私はこれまで、認知症によって人格が変わり、家族との関係が壊れ、悲惨な晩年を送る患者を診てきた。最先端の研究成果を紹介する番組の議論は、私にはどこかキレイ事のような気もした。
そんな認知症について、最近見方が少し変わる経験をした。長年、外来で診てきたMさんが亡くなったことがきっかけだ。87歳での最期に接し、認知症も悪いことばかりではないと、想いを新たにした。
Mさんは元県庁職員だった。真面目を絵に描いたような人物で、診察室での振る舞いも礼儀正しかった。幼い頃に戦争で両親を失い、身寄りのないまま育ったという。その苦労が控えめで温厚な性格を育んだのだろう。
妻も苦労人だった。集団就職で上京し、Mさんと知り合って結婚した。そして、2人の子どもに恵まれた。
ただ、夫婦の性格は対照的だった。温厚なMさんに対し、妻は気が強く、「お父さんは頼りないんです。何をするにも手・・・
私はこれまで、認知症によって人格が変わり、家族との関係が壊れ、悲惨な晩年を送る患者を診てきた。最先端の研究成果を紹介する番組の議論は、私にはどこかキレイ事のような気もした。
そんな認知症について、最近見方が少し変わる経験をした。長年、外来で診てきたMさんが亡くなったことがきっかけだ。87歳での最期に接し、認知症も悪いことばかりではないと、想いを新たにした。
Mさんは元県庁職員だった。真面目を絵に描いたような人物で、診察室での振る舞いも礼儀正しかった。幼い頃に戦争で両親を失い、身寄りのないまま育ったという。その苦労が控えめで温厚な性格を育んだのだろう。
妻も苦労人だった。集団就職で上京し、Mさんと知り合って結婚した。そして、2人の子どもに恵まれた。
ただ、夫婦の性格は対照的だった。温厚なMさんに対し、妻は気が強く、「お父さんは頼りないんです。何をするにも手・・・









