経済

公開

ソフトバンク「経営危機説」の真相毎日三億払い続けるみずほの「超優良顧客」

 総務省やNTTを発信源とした一連のソフトバンク「経営危機説」が、いまだにくすぶっている。根拠のない破綻懸念や資金ショート説などの乱発に、証券・金融業界のプロたちの間ではしらけムードさえただよう。合成CDO(債務担保証券)のデリバティブ損失が発覚するなど、孫正義流のレバレッジ経営も決してほめられたものではないが、寡占にあぐらをかいた通信業界が匿名メディアを使って演じる叩き合いはもっと醜い。

 十月二十九日に開かれたソフトバンクの二〇〇九年三月期第2四半期決算説明会で、孫社長は「営業利益は一千八百億円と過去最高を更新した」と胸を張った。今期のフリーキャッシュフローは〇八年三月期のマイナス一千六百四十二億円から三千億円改善して一千四百億円に、さらに今回は一〇年三月期の予想まで公開し、キャッシュフローは二千五百億円まで到達するという内容だ。

 これまで来期の業績見通しなどを一切してこなかった同社が、「一年半先の予想までご提供するのは大変な進歩でしょう」(孫社長)というほどの大盤振る舞いだ。

ほとばしるキャッシュフロー

 それもむべなるかな。ソフトバンクの株価は夏からキリモミ状態で落下していた。七月十日の米アップル製携帯電話「アイフォーン」を発売した直後の第1四半期決算時に二千円を超えた株価は、十月末に七百円を割る。第2四半期決算発表を当初の予定から、直前になって一週間早めて開催したのも、「これでは株価が持たず信用不安をあおる」(ソフトバンク関係者)と判断したためだ。

 株価は経営危機説に連動した。
この秋にかけて複数のメディアは、同社の売り上げが融資のコベナンツ(財務制限条項)に抵触し、銀行が融資を引き揚げるという説や、広告代理店やベンダーへの支払いが滞っているという資金難説などを執拗に報じ続けた。

 けしかけたのは、冒頭に記したように総務省やNTT。その背景には民主党への政権交代を見越して勢力を広げるKDDI、ソフトバンクなど、通信業界の構造変化があるのは、本誌十一月号でも明らかにしたとおりだ。

 通信業界の醜い足の引っ張りあいに、一部の投機的な機関投資家がソフトバンク株の下げ局面において空売りで加担した。これに呼応するように、同社向けクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッド(保証料率)は反比例して900bp(ベーシス・ポイント)まで急上昇した。ネガティブキャンペーンがスプレッドを上げ、株価が急落するという虚構のスパイラル関係だ。

 その証拠に、十月二十九日の決算発表では、社債の引き当て用に積んだCDOが焦げ付くという不測のサプライズはあったものの、突発的事象を除けば、ソフトバンクのキャッシュフローが順調に回っていることを裏付けた。

 メリルリンチ日本証券は、これを「ほとばしるキャッシュフロー」と表現。「これだけ安定したキャッシュを生むクレジットを、900bp台で買える機会はもうしばらく来ないだろう」(魚本敏宏アナリスト)として「強い買い推奨」とした。残ったのは、空売りに遅れて便乗参入し、大損をこいた個人投資家たちの屍、屍、屍。

 今年度上期の連結キャッシュフローは投資CFと財務CFの減少でマイナスとなったが、これはソフトバンクの子会社であるヤフーの自己株式取得や、「校内網」を運営する中国SNS大手、OPIへの出資払い込みなどから生じたもので、純粋に一過性のものだ。「むしろ、一千七百七十二億円の営業活動によるキャッシュフローが出ていることを重視すべき」とアナリストは強調する。

 そもそも、国内の金融機関が、売上高の増減でコベナンツを設定することなど「絶対にありえない」(前アナリスト)。みずほコーポレート銀行(CB)が貸しはがしを検討するなど「五万パーセントありえない」(同)。ソフトバンクがみずほCBに支払っている金利は一日で三億円に上る。「普通の企業でこれだけの金利支払いをしてくれる会社はない。みずほにしてみれば超優良顧客」(邦銀幹部)。むしろ返済を遅らせてほしいぐらいだろう。加入者が減らないかぎり、追加投資もどんどんしてください、というのがみずほの本音だろう。

 手元に金融筋の内部資料がある。ボーダフォン買収による二兆円超の長期借り入れのうち、携帯事業にともなう借り入れ一兆四千五百億円の年間ミニマム返済額を示したものだ。

 これによると、〇八年度は二百億円、〇九年度一千億円、一〇年度八百億円、一一年度八百億円、ミニマム返済がピークとなる一二年度でも二千百億円で、その後は多少のばらつきはあるものの漸減していく。ソフトバンクが決算発表で示した、債務残高の漸減グラフにほぼ一致する(もっともグラフは下降線のみで、孫社長はバックデータについては公表できないとしていたが)。

 ソフトバンクの年間の営業キャッシュフローは今後三千五百億円前後で推移することが見込まれ、CAPEX(設備投資)を差し引いたとしても一千五百億?二千億円のフリーキャッシュフローが債務弁済に回せる金として残る計算だ。決算発表で見せた鬼の首を取ったような孫社長の態度は片腹痛いものとはいえ、資金は完全に、過不足なく回っているといえる。

どんなバカでも儲かる事業

 二〇〇〇年に、合併や携帯事業の不振で二兆二千億円の有利子負債にあえいでいたKDDIを思い起こしてみればいい。小野寺正社長が就任した〇一年六月から七カ月後、携帯事業の赤字垂れ流しで業績回復のめどがたたない同社株は、半値まで落ち込んだ。しかしその後のau携帯電話の復活などで現在の有利子負債残高は五七〇〇億円まで減っている。

 別にKDDIが特別頑張ったからではない。通信事業は、初期のネットワーク投資に莫大な金がかかる。十六社が合併したKDDIのような企業体は、その設備の統合などに金がかかった。ネットワークごと通信会社を買収したソフトバンクも同様だ。

 しかし、いったん加入者が増える構造を作り上げれば、実質的に国内三社の寡占状態である国内通信市場では、「どんなバカがやってもうまく回る」(KDDI幹部)のが携帯事業なのだ。

「孫マジック」とほめそやすのは愚の骨頂。孫社長は二兆五千億円をかけて、この美味しい事業を買ったにすぎない。失敗するほうがおかしい。いたずらに信用不安をあおり、仕手筋に近い機関投資家の巨利を幇助し、独占企業体の他社排除論理に与していることに無自覚なメディアは、市場の冷笑に気づかないのだろうか。


PAGE TOP