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社会・文化

やっぱり乗るのが怖い「JAL」

大惨事と紙一重の「事案」次々噴出

2015年6月号公開

「この異常なコストカットが続けば必ず事故が起こる」「会社に殺される」

 本誌先月号の記事「JALの『操縦室』」には、大きな反響があった。これは、当該記事を読んで編集部に直接寄せられたメールだ。送り主は昨年JALを退社した機長のうちの一人。このような悲痛な思いを抱えて、JALを去るという苦渋の決断をしたという。

 直接話を聞いたが、元機長は危険性を指摘しながらも「JALが少しでも改善されれば」と古巣への愛情を失っていないのが印象的だった。

 しかし、同社の拭いがたい安全軽視のエピソードはまだまだある。機長や副操縦士といった運航乗務員はもちろん、機体整備の現場や運航管理に至るまで、現場はすでに限界に達しようとしている。

墜落しかねない重大ケース

 大惨事と紙一重という深刻な事例を二つ挙げる。一つ目は昨年十月、北九州空港でのケース。

 この日の日中、JALのB737が北九州空港に着陸態勢に入った。当日の気象条件は良かったため、計器に頼らず目視で空港にアプローチしていった。ここまでは「よくあること」(JAL副操縦士)というが、事件は着陸直前に起きた。突如として機体が大きく右側に傾いたのだ。

 その角度は地上五十メートル地点で三十一度。スキー場の上級者用コースに近い、相当な傾斜だ。右の窓際座席からは地面が目の前に見えた。同機の翼の幅は三十四メートル、翼が地面にぶつかる感覚だったはずだ。

 上空で旋回する際に機体が傾くことはあるが、それでも最大で二十五度程度だというから、いかに異常事態かわかるだろう。しかも、直後に機体を立て直そうとして今度は左へと傾いた。

 地上まで二十メートル、ビルの八階程度の高さの時点で十七度も傾いていたというから、乗り合わせた乗客は生きた心地がしなかったろう。

 B737といえば、先月号で「未熟な操縦士の巣窟」と指摘された機体だが、驚くことにこの時の機長は問題となった旧JALエクスプレス(JEX)出身ではない。

 飛行機が着陸する際に、滑走路に対して延長線上からアプローチすることは素人でもわかる。現に北九州空港へ着陸する機は左ページの図のように、最後は手前へと回り込み真っすぐと滑走路に入っていく。

 しかし、この時のJAL機は滑走路に対して、海側からほぼ直角にアプローチしてきた(図中の太線)のだ。最終的にほぼL字型に折れるような軌道で滑走路方向に無理やり旋回した結果、機体が大きく傾いた。「通常では考えられないケース」(前出副操縦士)だ。

 もう一つのケースは、昨年の大阪伊丹空港での離陸だ。JALのB777が離陸後にタイヤを収納しようとして間違えてフラップを上げた。自動車でウインカーを出そうとして、ワイパーが動いたように聞こえるが、全く違う。

 フラップとは、主翼の後方についている「高揚力装置」。簡単に言えば、機体が浮く力を発生させる装置だ。伊丹空港では通常、離陸後に左に旋回しながら高度を上げていく。その時にフラップの角度が維持されないと最悪の場合失速して墜落してしまう。旋回している時は、真っすぐ上昇するときよりも重要になるという。伊丹空港は誰もが知っているように住宅密集地にあり、失速しなかったのは不幸中の幸いに過ぎない。

 重大な操作ミスを行ったのは当該機の副操縦士だった。直後に乗務停止となり再訓練となったが、乗客の命を危険に晒しかねない信じがたいケースである。

 こうしたミスが起きる原因は、コスト削減のための訓練時間の短縮にある。二〇一〇年のJAL破綻後に乗り込んだ稲盛和夫が提唱した「JALフィロソフィ」。内部では稲盛フィロソフィと呼ばれる四十項目にわたる経営理念は、どれも当たり前のことだ。しかしそのうちの一節に過ぎない「第二部第二章採算意識を高める」という項目だけが金科玉条になってしまった。結果としてシミュレーター訓練の時間は削られ、副機長昇格時の実務訓練は二割もカットされたのだ。

 コスト意識の徹底の結果、無理を押して乗務する操縦士もあとを絶たない。一昨年に肋骨を折りながら乗務を強行した機長が話題となったが、同様の事例はつい最近もある。同社副操縦士が、機種やルートを伏せることを条件に語る。

「四月に東南アジア便に乗務した際、帰国便の直前に頭痛に襲われた。風邪の自覚症状はなかったので、かなり辛かったが乗務した」

 過去に経験したことのない痛みがあったが、発熱や咳などはなかったために、機長には気づかれることはなかったという。帰国後に頭痛は消えその後再発もしていないと語るが、原因不明の頭痛ほど怖いものはない。機長有事の際の「保険」として決して弁護できるものではないが、この副操縦士は出発直前だったために欠航となるリスクに怯えたのだという。欠航となれば、乗客への補償や振替便などで膨大なコストがかかる。それほど追い詰められているのだ。

「安全な翼」は実現しない

 少し古い話になるが、昨年一月にJALの勇気ある機長が社内に流したメールを入手した。この機長は、その直前に北海道の新千歳空港からのJAL機に業務上の移動のために乗っていた。その日の千歳は雪が降ったりやんだりの状態で、ANAやAIR DOといった他社の機体では、除雪作業が行われていた。「防除氷液」を機体にかけて雪を溶かす作業だが、一機十五分ほど、一回数十万円かかるという。しかし、JAL機はその除雪をせずに滑走路に向かい、離陸直前には翼の上にシャーベット状の雪が積もっていた。そのまま離陸したため、メールをした機長は隣に乗っていた副操縦士と顔を見合わせたという。「命が縮む思い」と書いてあり、素人にはわからぬ危険が迫っていたのだ。翼に氷がつくと揚力が下がり、最悪の場合墜落してしまう。一九八二年に米ポトマック川に落ち、七十人以上の犠牲者を出したエア・フロリダ機事故の原因だ。

 操縦士の問題だけでなく、機体整備スタッフや運航管理の部門でも「安く飛ばすこと」を最優先した結果だ。しかもこのメールの後も、特に社内に改善のアナウンスは行われていないという。

 現在、主力機のB777の機長のうち、二十人ほどが退職を希望している。これは定期便さえ欠航しかねない規模の人数だ。彼らがJALを去る理由はそれぞれだが、結果として再び乗務員の促成栽培と過剰な勤務が繰り返され、現場は疲弊し事故のリスクは高まる。JALを縛る稲盛フィロソフィを捨てぬ限り、「安全な翼」は実現しない。(敬称略)