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連載

日本の科学アラカルト73

「正確な時間」を計る 光格子時計の開発

2016年9月号

 約百三十七億年前に宇宙が誕生した瞬間から、この世の「時間」の流れが始まった。人類が生まれたのはわずか数十万年前。地球上で唯一知能を持った我々は、古くからその時の流れを測定するための智恵を絞ってきた。天体の観測などで得られる暦の概念とは別に、より短い時を測定するために作ったのが時計だ。古くは古代エジプトで「日時計」が使用されていたと考えられている。その後、水や砂を使った時計が用いられ、機械式の時計も誕生した。
 時間の概念は科学の進化とともに変化している。それまで絶対的だと思われていた時の流れが環境によって変わることを明らかにしたのがアインシュタインだ。より正確な時間を計測する時計の開発は物理現象の測定にも不可欠なものとなった。
「一秒」という時間の定義もこの数十年間で変わった。一九五六年までの一秒は、地球の自転周期、つまり一日の八万六千四百分の一と定義されていた。しかし、地球の自転速度が一定でないことがわかり、この年以降は地球の公転周期(一年)の三千百五十五万六千九百二十五・九七四七分の一と再定義されたのだ。
 しかしそれもわずか十一年で変わる。セシウム・・・