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連載

現代史の言霊  第87話

7月の虐殺- 旧ユーゴ・スレブレニツァ大虐殺 (1995年)
伊熊幹雄

2025年7月号

これはまさしく地獄絵図だ
フアード・リヤード(旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷判事)

 東西冷戦が終結する前の話だ。
 西側と東側の両陣営のはざまで「非同盟」を掲げて大きな影響力を持ったのが、ユーゴスラビアという国だった。「南スラブ人の国家」という意味で、セルビア人、クロアチア人、スロべニア人など複数の民族で構成された。
 人口2300万人ほどの国家としては、サイズ以上の国際的影響力を持った。共産主義者同盟による一党独裁だったが、ソ連の独裁者スターリンに嫌われ、ソ連圏で「異端者」扱いされた。やむを得ず「非同盟」という概念を作り出した。
 1950~60年代には、インドのジャワハルラル・ネルー首相、中華人民共和国の周恩来首相らとともに、「米国圏でもソ連圏でもない国々」として声を上げた。61年には、ユーゴの首都ベオグラードで第1回非同盟諸国首脳会議を開催した。
 連邦制をとり、国内の「六つの共和国」には広い自治権を与えた。「五つの民族(スロベニア人、クロアチア人、セルビア人、モンテネグロ人・・・

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