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連載

をんな千一夜 第話

山本 登喜子 「海軍の父」に愛されて
石井 妙子

2025年7月号

 NHK大河ドラマで吉原遊廓が描かれ、何かと物議を呼んでいると耳にした。吉原に限らない。遊廓は日本中に点在していた。いったい、どうしてこんなに多いのかと驚かされる。
 明治維新後、下級武士がこの国の中枢を占めて政を担ったが、勤王の志士と言われる彼らもまた、遊廓通いには熱心だった。立身出世を果たして馴染みの芸者を妻にした例は初代総理大臣の伊藤博文を筆頭に数え切れない。彼女たちは夫の栄達とともに鹿鳴館でダンスを踊る「貴婦人」となった。だが、この夫人だけは晴れがましい場に出ることを避け続けた。それは彼女が芸者ではなく、元遊女であったからだと言われている。
 海軍出身で総理大臣になった山本権兵衛の妻、登喜子が身を置いたのは、東海道の宿場町として栄えた品川遊廓だった。
 山本が一目惚れして苦海から彼女を救い出したのは明治9(1876)年。後に「日本海軍の父」と呼ばれることになる山本だが、当時はまだ海軍少尉補であった。
 山本は嘉永5年に薩摩の下級武士として生まれた。16歳で戊辰戦争に出征している。
 明治維新後、彼は進路に迷い、崇拝していた西郷隆・・・

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